柔し、うつくし、不甲斐なし

走ったって、先も雨

鬼滅の刃で病んだ話

はじめまして、眠り箱と申します。

もう限界なので、どうか「鬼滅の刃」の話をさせてください。

というか、この激重感情を供養させてください。気兼ねなく逝かせてやってください。胸に重いものがつかえて苦しい。体重もめちゃくちゃ増えた。

 

周囲に鬼滅の話ができる人間が少ないかと言えばそんなことはなく、もはや誰にでも通じる共通の話題になった国民的アニメ『鬼滅の刃』。

私がなんでこんなに苦しくなっちゃってるかと言うと、『普通に』鬼滅が好きなパンピの皆さん、ひいては私を鬼滅に導いた張本人でさえ引くほどいつまでも一人でズブズブしちゃってるからですわ。

つい最近も私なんかよりずっと前から鬼滅を嗜んでるらしい友人から連絡が来たので、ブワーーーーーーーッって長文メッセージ送ったら返信来なくなった。

 

こんなに爆発的なヒットをかましてるのに、なんで同程度の熱量を秘めてる人が近くにいないんだろう。やっぱり「いや〜鬼滅楽しかった!さあ次!」ってmove on♪できちゃう器用な人間しか生き残れないのかな、この修羅の世。

「鬼滅とかミーハーじゃん笑」、「え、まだ言ってんの!?笑」って斜に構えてる人の嘲笑とかもはや聞こえないのよ。こっちは煉獄の兄貴の背中を追うので精一杯なので。煉獄の兄貴が喋ってるので黙って!血が止まらないんだよ!あなたは救急車を呼んでください!AEDは取りあえず要りません!!!あなたは呼吸で止血してください!!!

 

元はといえばだな…あれは2年前…(そんなに前から話されても…)(嫌がらせ?)いや、そんなに前じゃなくて、わずか4カ月ほど前、無限列車が公開されて日が浅い頃に、街を歩くとキッズたちからしきりに「ねずこだ!」「ねじゅこ…?」などと意味不明な呼ばれ方をするようになったことに端を発する。

挙句の果てに近所の銀行の行員さんが「眠り箱さん、禰󠄀豆子みたいですね」と。

当時は『鬼滅とか……ケッ』としか思っていなかった私、行員さんに所以を尋ねると、どうやら髪色が理由らしい。

毛先の方をブリーチしてるんだけど、染めるのが面倒になったので、美容師さんにうまいことグラデーションにしてもらってるのね。毛先におりるにつれオレンジっぽい感じになってるわけですよ。しかもスーパーロングで、癖のせいで若干ウェ〜ビィ〜

 

『ほぉ~ん、禰󠄀豆子、どんなもんだか見てやろうじゃん』

興味本位で配信サイトを開き、鬼滅を再生。

 

いや禰󠄀豆子、爆烈可愛い

 

私は全然禰󠄀豆子じゃねえ。そりゃそうよ。なんかもう、めちゃくちゃ美しいよこの人。でも鬼になっちまったのか…そうか。

これで終わるかに思われた、私の鬼滅ジャーニー。

 

主人公が最初から良い奴すぎるのよ…

んでこの冨岡義勇とかいう人めちゃくちゃ怖くて草。どんなバックボーンがあるのかとか知らないけど、仮にも突如家族惨殺されて妹も訳わからん怪物になっちまったメンタルガタガタ状態の幼い少年にかける言葉かいな。こいつが鬼だな。人でなし(※のちの最推し)

え、炭ちゃんポテンシャルすごいな!さすが主人公だぜ!!

へえ、この超怖い人、紹介状書いてくれるんだ~?怖いわ~炭ちゃん、騙されるんじゃないよ?

どれどれ、それで?

 

もうやめられないんですわ、これが。

 

少年漫画読んだことない、ガラスの仮面とベルばらで育った私(尚SWのガチオタ)にとっては、少年漫画においては王道の展開も、極めて新鮮なんですよ。少年向けのアツさやスパイスに慣れていないのね、初めてキムチ食わされた新生児ですわ。

このまま「もうちょい見てやるか笑」のテンションで、10話ぶっ続けで見た。

この時点でまだ余裕ぶっこいてる(無意識領域は既に大火事)私、「おもしろいけど、そこまで流行るかァ~?」とかキショいこと言ってますからね。

 

自分の様子がおかしいことに気が付いた(もう引き返せない場所まで来てしまっていた)のは、12話の善逸覚醒シーン。

衝撃受けすぎて大汗かきながら6回連続再生したよ。

ご近所さんの玄関ブチ殴りながら「オイ、善逸がヤバい!!!!!!」って日輪刀振り回そうかと思ったね。

 

ここからはもう、普通にスッ……………………………とハマった。もう何の違和感も拒否感も無く、スルスルっと沼の奥まで…落ちてゆく…落ちてゆく…沼の中へ…

 

で、私がキメハラを仕掛けているパンピの皆さんからよくいただく質問があって、そもそも「何がそんなに特別なんだ」ということ。

家族を失い、妹を鬼にされた心優しい少年が仲間との出会いと別れを経ながら鬼退治に勤しむお話。

あ、そうですか。で?

「とりあえず見なよ、わかるから」みたいな返答は絶対にしたくないのね。私はこういう風に丸投げにされて言いつけ通りに観たことが無いので…てへ

 

全然普通ににわかだけど、鬼滅の素晴らしいところについて喋らせていただきやす。不届き者ですみません。

「基本」という礎の上に個性を出すべしというのはあらゆる芸術の理なわけですが、その点でこの作品は諸人のお手本となるべきものです。

個性というのは、呼吸で言えば、冨岡さんの凪、時透くんの朧(たぶんオリジナル)のようなものですが、どちらも、基本の水の呼吸や霞の呼吸を完全に会得しないと達し得ないものでした。吾峠先生もこれをやっています。

物語の基本と言われる部分は一つも漏れることなく押さえた上で、どうにも真似しようのない独特なセンスでユニークな付加価値を乗せている、あまりにも秀逸なつくりになっているわけです。

聞いてくれる友達がいないのでここにひとりごと備忘録を残します。私は嫌われているのか…? 

 

 

 

1. よい物語の必要条件

ⅰ. 冒頭の凄まじい情報ばらまき作戦

アニメを観るよりも先に、漫画アプリで冒頭約60ページを試し読みしました。

その時点ではまだブームに懐疑的で(何様?)、どうせ一部の熱狂的なファンたちが(何様?)騒ぎ立てているだけであろうと偏見ベトベトな心で読んだので、正直粗探しをしてやろうという気持ちで(だから何様なんだよ、土下座しろ)した。

ただ、冒頭わずか数ページであまりにも巧みに情報を撒き散らしていくもんだから、鼻血出た。

主人公が家族想いの純朴で心優しい少年であること、父親を亡くした家族にとって今や大黒柱であること、鼻が利き、正義感が強く、弟妹たちや町の人々にも心底愛されている。

ここまでを、紙ペラ数枚で全部放出します。

そして、鬼の気配。三郎爺さんの助言で夜の間の帰宅を諦めて宿をとる。三郎爺さんがぽつりと口にする「鬼狩り様」の存在。そういや、昔おばあちゃんも言ってたな……これだけでもう今後主人公を待ち受けている波乱と血の匂い、昔からの因縁が示唆されてしまうではありませんか。

これぞプロの仕事といえる見事なばらまきです。世界観に引きずり込む引力が強すぎて地面引きずられて擦り傷できましたね。血ィ出てるんですがどうしてくれるんでしょうか…

 

ⅱ. 〇〇すぎる主人公

「穏やか利かん坊」、みんなの長男竈門炭治郎くん。

担当編集さんが明かしたエピソードの中で、はじめはかなりトガった主人公を用意していた作者に対し「もっと普通の子いませんか」と求めて現れ出てきたのが炭治郎だったという話がありました。

確かに炭治郎は、豪邸に住む名家のお坊ちゃまでもなければ、荒くれ盗賊団の首領の息子でもないし、煌びやかな肩書は背負っていません。まあある意味では「普通」だ。

ある程度「普通」の子でないと、周囲のユニークなキャラクターたちが引き立たなくなってしまうので、炭治郎も一応平凡な子ということになっているんですね。ただ、だいぶ色々ズレていたり、物語が進んでいくにつれ、「こいつ、言うほど普通でもないな…」とこちらが冷や汗をかかされるようになっていく。というか、マジでこっちが焦るほどの異常者である。そのあたりのゲインロスに脱帽です。

 

一方で、主人公がのっぺりのほほん「普通」に終始してしまうのはつまらない。ヒット作の魅力的な主人公たちは、一見普通そうでありながら実は、極端に突出した特徴を持っているというパターンも往々にしてある気がします。

炭治郎の場合は、鱗滝先生の言葉を借りて「優しすぎる」少年でしょうか。あと、鼻も利きすぎる。料理も上手すぎる。他人の地雷を踏みすぎる。ハートが強すぎる。一人で頑張りすぎる。

それなのに、全てを自分一人で背負い込んでズドーーンと沈み込んで重苦しい顔をしたりはしない。そういう顔をするのは冨岡さん……流れ弾失敬。

ちゃんと人に助けを求めることもあるし、誰にでも分け隔てなく接し、軽やかに愛し愛される人というイメージ。

こんなのさ、好きになるしかないじゃん…結婚しかないよもう……

すいません、私欲がまろび出ました。 

とにかく、主人公がここまで「既に出来上がった状態」で出てくるって結構珍しいパターンではないかしら。

未熟な人間が心身ともに成長していく様子が描かれることが多いのに、彼はもう精神が全部出来上がっている。自分を律することも、他者を激励することも最初からお手の物である。竈門家は一体どんな教育を施しているのだろうか。どう考えても山奥で炭焼きをしている場合ではない、教育本を出版するべきである。

炭治郎は窮地に陥った時、無論いもすけおやぷん等のサポートは欠かせないけど、精神的には自分で自分を引っ叩いて立ち上がっているきらいがありますよね。

無限列車観た?何あれ。

水面の反射の中の自分に「起きろ!!!!攻撃されてる!!!!!!!」て……どこまでかっこよくなったら気が済むんだ、長男だからと言ってやっていいことと駄目なことがあるんだぞ 激強炎柱煉獄さんでさえまだ術を解けていないというのに…しかも夢の中とは言え何度も自決するなんてお前 こっちの情緒がハチャメチャになったじゃないか 炭治郎、お前は悪い子だ、こっちへおいで

 

ⅲ. 衝撃的な問題勃発、インパク

漫画初見時感想:画が怖すぎる

アニメ初見時感想:音楽と色付けも相まって尚怖い

 

スタートが………ハ…ハァ……怖すぎませんかえ…?????

家族想いの、人柄の良い朴訥とした少年だ…かわいい、がんばってほしい、健気だなあ、偉い…え、「血の匂いがする」…?待って待って、怖い!!!!すごい怖い!!!!!見たくないけど気になる!!!!!アーーーーーーッ!!!!血まみれの血みどろ!??!??家族全員死んでる!??え、え、待って無理かも!!!私グロ無理なんですけど鬼滅難しいですかね!???!(手遅れ)

 

あれみんなパニックにならないの?平気?

アニメなんて絵が美しすぎて画面越しでもすごい寒いし、禰󠄀豆子の体にわずかに残った温もりと炭治郎の吐く息の熱さをヌルッ…と感じる。

そうしていつの間にか、我々まで一緒になって息を切らして雪山を駆け出しているし、訳も分からず冨岡義勇にめちゃくちゃ説教されちゃうわけですよ。

あの思い切りの良い臨場感とスピード感は稀有ではないでしょうか。

地震のように物語が動き出し、足場が揺れて身動きが取れないままガラガラと爆発に巻き込まれて被災してしまうイメージ。

冨岡さんの突然のマジギレが怖すぎて幼女のように泣きました。

 

ⅳ. 明確な目的提示

鬼退治と聞いたら桃太郎。日本人のDNAにデフォルトで組み込まれている等式。

ファンタジー要素もあり、単純明快で、ラストはちゃんとカタルシスが得られる…小説や脚本のお手本のような「桃太郎」。紙芝居のような視覚的ツールを用いても良いですが、口頭で語って聞かせるだけでも十分キッズたちの心を掴めます。

心優しいヒーロー(桃から生まれたという謎設定がステキ)が道中で出会った仲間たちを引き連れて悪い鬼を退治しにいく。勧善懲悪!王の道と書いて「王道」!!

鬼滅の刃の構成も、大きく捉えるとこれです。

 

ところで、桃太郎って、どうして突然鬼退治をしようと思ったんですかね?

地方によって、家庭によって、その動機の語られ方は様々でしょう。

桃太郎の身近な人物が鬼の被害を受けたパターンとか、天皇より直々に討伐命令が下ったパターン…私が聞かされたのはきっかけ無しVer.だったような気がする。

 

一方、炭治郎はなぜ鬼退治を始めようとしているんですか?

ある日突然家族を鬼に惨殺され、唯一生き残ったが鬼にされてしまった妹を人間に戻すために、その方法を知っているかもしれない鬼の親玉に接触する必要があるためです。

目的が超しっかりしている。

遠い忘却の彼方を漂う私のゴミカス卒業論文などとは比較にならないほどに、確固たる、揺るぎない目的が彼の足を動かしている。

その目的を達成するために、情報収集をし、人間に擬態して医師として暮らす鬼・珠世さま♡や鬼殺隊関係者たちと交流を深めていきます。

この過程で、個人的な仇討ちやがむしゃらな憎悪に終始することなく、この惨い連鎖を根こそぎ断ち切らなければならないという決意をも固め始めていくわけですが、これはあくまで最初に提示された目的の延長線を逸することなく、それがごく自然に膨れた結果なんです。

最初から最後までブレてないんですよ、俺らの炭治郎は。

こういう人って、いなくない?現実では、お目にかかれなくない?

友人にそう言ったら、「そうでもないと思う」と一刀両断されました。どうやら、泥人形のような人間たちの相手をしているのは私だけのようです。周囲は自分の鏡ですから、まずは自分の行いを改めなければならない……(首に日輪刀を当てる)

私はこうやって日常にもがき苦しんで、どうしても炭治郎に縋りついてしまう。日々、鬼舞辻無惨の最期そのものです。

 

ⅴ. 共感の誘引

好ましい物語には、主人公の明確な目的と、それに対する読者・観客の共感が必要不可欠です。主人公と読者の利害が一致するのは大前提ですよね。

人は、根源的で本能的な欲求に最も惹きつけられます。例えば「危機的状況から脱し、天寿を全うしたい」、「愛する人と結ばれ、子孫を残したい」などでしょうか。社会的な自己実現や承認欲求の充足などは、もう少し段階を踏んだ間接的な欲求と言えます。

 例え話として…自分の能力や容姿を侮蔑され、心に傷を負った主人公がいるとします。

芸術の道に進みたいのに、親に認めてもらえない。

器量が良くないせいで、想い人に拒絶される。

こういう苦い経験をした主人公は、物語を通して徐々に成長していきます。

ただ、読者の全員が必ずしも主人公と同じ環境に置かれているわけではないので、より鮮明に自身を主人公に投影するために、一旦脳みその中の変換プラグを引っ張り出してきているはずです。

自分のあの時の経験に似ている、辛かったな…。

現時点で容姿に不満は無いが、最近失恋をしたので主人公の気持ちはわかる…等々。

この変換プロセスが完全にすっ飛ばされているのが、鬼滅です。

血の繋がった親族を含め、大切な人が痛めつけられているのを喜ぶ人はほとんどいません。稀にいますが、それは完全に鬼側の方です。どうぞ、魘夢ちゃんや童磨先生のお導きに従ってください。

自己実現の方法で悩む高校生が主人公となる作品等と比べると、序盤に炭治郎を襲った不運がいかに根源的で、全年齢的であるかがおわかりになるでしょう。

あまりの悲惨さに、我々は突如おしゃぶりを取り上げられた赤子のように泣きわめくしかありません。 

 

 

2. 独自の付加価値

ⅰ. キャラクターの造詣

ちょっと確認なんですけど、少年漫画ってみんなこうなんですか?

キャラクター造詣にここまで力を入れられたら、こちらは手も足も出ないじゃありませんかワニ先生……卑怯ですよ…

ストレートで単刀直入、性別や年齢間で解釈に差が出にくいであろう物語構成…とは裏腹に、個々のキャラクターたちには、ひとひねりどころかふたひねり、みひねりと巧妙な設定が縫い付けられている。作者は天才のため、無意識なのかは謎である。

マネジメント能力と地雷踏み抜きスキルが高すぎる主人公炭治郎…鬼なのに人を食わず不死川兄貴の稀血を前にしても狂わない鋼の理性を持つベイビーフェイスねずこ…普段ビービーうるさいのに眠るとバリクソかっこよくなる壱の型しか使えない善逸…頼れる「おやぷん」だけど意外とサポート特化でご褒美につやつやのどんぐりをくださる伊之助…

メインのかまぼこ隊だけでもこれです、盛りすぎ、サービスが甚だしい。

アニメシリーズの後半は『柱』とかいうかっこよくしかなりようのない最高位の鬼狩りたちまで登場し、これまた各々滋味深いバックグラウンドをお持ちなんですよ……

個人的にマジヤベエなと思った(語彙どうした)キャラクターを泣く泣く厳選してみますね。ただ語りたいだけです。さねみ兄チャンも入れたかったのですが、彼はおつらすぎる上に、専門家の方々が多いのでここでは割愛します。

 

①我妻善逸

いくらかはまともだった私の頭のネジを、雷の速度で吹っ飛ばしていった男。返せ、ネジ、返せよ。

極度の女好きで、任務にビビりすぎて汚い高音でビービー騒ぎ立てている(懐がウユニ塩湖の炭治郎もさすがにちょっと怒るレベル)のが常なのに、一旦眠りに落ちると(というか気絶?)バリクソかっこいい『霹靂一閃』を繰り出す。しかも六連とかやります。六連……?

そもそも雷の呼吸は足への負担が大きい呼吸なので、あんなことをしたら足がぶっ壊れるのが普通なのだが…明らかに「特攻」傾向が発現している。(そういう無茶な戦い方をするから死にかけて怖い思いをするのでは………と思うけどすごい強くてかっこいいのでそのままでいてください)「俺は物凄く弱いんだからな!舐めるなよ!」などと涙目で凄んだりしていて意味不明である。

ちなみに「壱の型」しか使えません。一つの型しか使えないキャラクターは作中彼以外に確認されないほど珍しい。一つの型を極め抜け、という彼のテーマは、マルチタスクが苦手な大人たちにとって大いなる糧になるでしょう……たった一つのことを極めるって非常に難しいけどクールですよね。私はあちこち手を出して何一つ満足に成し遂げられていません♡ というか、この設定思い付くの凄くないすか?

あと、ガチ捨て子です。鬼に親きょうだいを殺されたり、生き別れになったりしている人物は作中に山ほど登場するんですが、善逸だけは親の存在が仄めかされさえしません。本当に何の手がかりもない。育手のじいちゃんが唯一の身寄りです。善逸という名前は、じいちゃんがつけてくれたのかな…?彼にぴったりですね…

柔らかくて優しくて臆病で、春のおひさまみたいにぽかぽかした可愛い人なのに、無意識領域が真っ暗闇なのは、ウーーーーーンやられました。

極度の女好きな彼ですが、禰󠄀豆子ちゃんへの想いはマジマジのマジです。結局、「鬼だから…」とかの偏見一切無しで守ろうと尽力してくれて、お花をくれて、いつなんどきも全力で愛を叫び、美しさを誉めそやしてくれる男は最高です。全力で応援してあげましょう。

 

②冨岡義勇

初見時、全然魅力を感じず。物静かなクールキャラには特に惹かれない。

花男で言うと花沢類より道明寺派なんです。わかります?(何が?)

すげえキレてるが、一応殺さずに見逃してくれたし、悪い人ではなさそうだ。師範を紹介までしてくれている。正直そこからずっと存在を思い出しもしなかった。

那田蜘蛛山で再登場。久々だね。あれ、この人……どう見ても様子がおかしいじゃないの。

体躯だけは強靭なパパ鬼の体を舐めまわすように纏わりつく打ち潮、暴れイノシシを一瞬で縛り上げる熟達した縄さばき、全てを無効化するチート技かと思いきや相手の攻撃を一つとして取りこぼさない細やかな斬撃があまりにも速くて見えないだけというオリジナル技「凪」………ここまでだとただの色柱である。色気駄々洩れの頼れるお兄さんキャラかと…思うじゃないですか。吾峠先生がすごいのはここからですから。

柱合会議ではコミュ障かつ同僚にだいぶ嫌われているらしいことが派手に露見し、たった一度会っただけの炭治郎&禰󠄀豆子のために命を懸けてくれていたという激重責任感の持ち主という事実が発覚し、亡き友錆兎の影を追って鍛錬を続けていたらいつの間にか柱になってしまっていたが自分が柱であるという自覚はまるで無く、ご飯を食べると口の周りは米だらけになり、ざるそばの早食い勝負にも黙って応じてくれる。良い人ダァーーーーーーッ!

ところでこの人、しのぶさんと並ぶと、綺麗ですね。

とんでもなく美しいですね、極楽浄土を思わせます、闇夜と月と胡蝶しのぶと冨岡義勇。

胡蝶しのぶの蝶の舞と冨岡義勇の凪の並びは全アニメーター達の悲願とも言える映像美ということで間違いないです。

(ぎゆしのの人、ずっと一人でなんか喋ってるな……………………)

 

③胡蝶しのぶ

わーい!!!みんな大好きしのぶさんのお時間です♡

体が小さいゆえ鬼の首が斬れないが、薬学を究めて毒薬を開発し、鬼に応じて鞘の中で毒を調合して得意の突き技でブチ込む。

おまけに医療従事者という盛り盛り設定。すごい仕事できるがゆえに上に頼りにされすぎて「先輩、何か手伝いましょうか…」「いや大丈夫だよ〜!上がって良いよ!お疲れ〜!」っつってある日突然会社来なくなる系の先輩じゃんね。

シンプルに仕事しすぎである。体がぶっ壊れて死んじまう。というか、最愛の姉カナエさんが亡くなった時点で、「個」としての彼女は死んでしまったんだと思う。

紫を基調にした可憐な羽織に蝶の髪飾り等女児ウケ抜群のキャラデザだが、何も映さない喪失の瞳と、冨岡さんへのきつすぎる煽りなどを考慮すると、完全に新しいタイプの女である。画面越しでも藤が香ってくるよね。

 

④煉獄杏寿郎

この人については想いが強すぎるので別にもう一つ記事を書きます。絶対に鬼にしてやるからな、杏寿郎。

 

⑤宇随天元

忍の名門一族出身。嫁が3人。とんでもない美丈夫。派手派手陽キャ

「派手に」「派手だろ」が口癖なのに、忍の特性上どうしても戦闘が地味になりがちだし、筋骨隆々でいかにも『脳筋!キラ〜ン♡』みたいな感じなのに意外にも柱の中だといちばん話が通じそうである。

そして、無限列車の次にこの人がメインのエピソードを持ってくることで、自分を家に縛り付けて死んだ人間と家を捨てて生きた人間というバチバチな対比構造がキマる。ちなみに、どちらが良くてどちらが悪いとか、そういう単純な優劣の話にはなっていないよ。

命を尊ばない特殊な家で育った人間だからこその「生」への執着、派手な器のデカさ、寛容で常識人な一面……好きだよ…ただうちの義勇さんをいきなり混浴風呂に入れるのはやめてもらえませんか…

 

掘れば掘るほどこんこんと湧き出てくる、尽きない油田。キャラクター達のバックグラウンドがここまで緻密に固められているのは、「なんでマン」こと初代担当編集さんのおかげでもあったようですね。ありがとう、みんなのヒーロー、なんでマン!

ただ面白いのが、こんなユニークなキャラクターが揃っているし、テンポ最強なユーモアも炸裂するんだけど、全員等しく「苦しみの淵」にいる人たちなんですよね。

他者には見えない断崖絶壁の縁、ギリギリのところでなんとか踏ん張っている。精神の糸が引きちぎられる寸前なんですよ。はぁん。

 

ⅱ. 全員きちんと喋る

鬼滅のキャラクターたちは、みんな揃いも揃って丁寧に内面を言葉にしてくれます。あの冨岡さんだって、心の中はいつだって饒舌です。

口数が少ないキャラクターばかりだとオタクの迷惑な考察や妄想が蔓延って、それはそれで非常に楽しいのですが、鬼滅の場合はそれが少な…くはないんだけど、解釈のズレはかなり抑えられていると思います。

話の流れや登場人物の心情変化などが、平易(だが大変珍しい)言い回しでしっかり説明がされるので、子供から大人まで相互に認識を一致させ、共有し合うことができる。これは、世代を盛大に跨いだ此度の爆発的ヒットの一因ではないでしょうか。

とにかく、好き勝手に行間なんざ読ませねえぜという強い意志を感じる。まあオタクは行間を読んでからが本番なので構わずメスで切り裂いてぐちゃぐちゃにするけど。さあさ、ここから先は任せなさい!(腕まくり)

 

人間って胸の内のモノローグが多い生き物だと思うので、あれはある意味リアルですよね。

完全なる俯瞰姿勢で三人称語りをすることが少ないので、それぞれのキャラクターのレベルまで下がって、当事者目線で個々のイベントを捉えられるという効果もあります。

 

子供から大人にまで等しい解像度を保証し、丁寧に掬い上げてくれている感じが伝わりますよね。

「オイオイ、お前らついて来られんの!?」「これがわかんないならどうぞ脱落してください」みたいな高慢ないじわるを決してしない。誰も置いてけぼりにしない優しさがあります。優しさは知性です。

 

ⅲ. 致命的な裏切りが無い

 味方が裏切ったり、敵が味方に寝返ったり、物語には必ずと言って良いほど登場する心臓破壊展開。ホンモノの破壊殺。

それなりのサプライズ感に胸が躍るしドキドキするんだけど、味方が敵に寝返ったパターンで、肝心の主人公よりデカい衝撃波を食らっちゃうんだよね、メンタルが弱いので。正直かなりのストレスって言うのかな。いや本当に笑いごとじゃなくて、そういうの駄目なんですよ。

なんと鬼滅はそれが無いんだ…………!!!!!!

ありがとう、私の心は無事です。

善い人は最後まで善いし、悪い人は最後まで悪い。必ず地獄に堕ちる。

あと、光堕ちしたキャラが人気出て、今までの悪事帳消しみたいになるの許せないのである。鬼滅の鬼たちは「悲しい過去」はあれど絶対に許されないのがよいです。

ここまでブレない善悪のボーダーラインを見せつけられると、よくある敵味方のフリップが子供だましの小細工に見えてきちゃうよ。

鬼滅はあくまでも直球勝負!正々堂々!正面衝突!猪突猛進!!!!!!!

てかお館さまが黒幕だったら多分観るのやめてたし(まあ黒幕とかのレベルじゃなく普通にキマってる人だったわけだが私は好きです)、煉獄さんが猗窩座の手をとっていきなり上弦入りとかしたら映画館で暴れて捕まってたと思う。

 

ⅳ. 大人を刺し殺す生々しい「不条理」

鬼滅の世界では、無理なものは無理だし、悪いものは悪いです。

多少のご都合展開はあっても、魔法はありません。

善良な者でも容赦なく奪われることもあれば、条件はほぼ同じなのに片や鬼に、片や鬼狩りになったりします。究極の「運」の世界です。

やるせねえ。なんともやるせねえや。

兄上は弟に笛を何本作ってやろうが縁壱にはなれないし、玄弥がどれだけ修業を積もうが兄貴には一生敵わない。どんなに腕が立ち正義感が強くても、錆兎は死んで義勇は生き残る。すまねえがそういうことだ。

この不気味なほどリアルな不条理、知覚できるかどうかは個人差があるが、大人になる過程でほとんどの人が経験しているはずだ。

どんなに気を付けていても失ってしまうものはあるし、努力が報われないこともある。鬼滅はそもそも、失った者たち、報われなかった者たちの物語なんだけど、彼らの中にもまた気の遠くなるようなヒエラルキーが存在する。もちろん自分でどうにかできる「精神性」の部分で分けられるとも言えるが、自分ではどうしようもない「出自」とか「運」とかそういうものの存在も執拗に突き付けてくる。吾峠先生、一旦そのナイフを……置いてもらえませんか…

 

ⅴ. 往復ビンタ

鬼滅は、物事の両面を見せてくることで有名。

あるパターンを見せられて「そうか…これが正しい道なのですね…わかりました…」ってフラフラそっちへ行くといきなりビンタされて『いえ、そうとは限りません』って言われる。

そう、基本的に『まあそうとは限りませんけどね笑』の応酬。

しかもやんわりと、優柔不断に繰り返されるのではなく、1回1回がかなり強めのビンタ。

イムリーなところで言うと、煉獄杏寿郎と宇髄天元の対比ですかね。

煉獄さんが猗窩座と対峙し見事な健闘を見せ、生き死にだけで判断するなら煉獄さんの負けということになってしまうにも関わらず(うわ、書くだけでも不快)炭治郎は「煉獄さんの勝ちだ」と叫びます。

うん。確かに煉獄さんの勝ちである。疑いようがない。

ただその後すぐに、杏寿郎の訃報を聞いた宇髄が「あの煉獄でさえ負けるのか」と口にする。

エエエエエッ??!??!???!

負けてないのですが?!??

 

それから、幾度となく反復されるきょうだいのIf。きょうだいIfのストックがありすぎて、もはや逃げたい。

うるわしの杏千兄弟、有一郎・無一郎ツインズ、さびぎゆブロマンス…(?)(ちなみにですが蔦子姉さんは私の推しです)

胡蝶姉妹エピあたりで、「もうマジで勘弁してくれ…」な気持ちになって参るのだが、渾身の継国兄弟エピで吐血して臨終。

ここで運よく命だけは助かったとしても、結局不死川兄弟で死にますよ。お疲れさまでした。

平凡な少年炭治郎を突如襲った悲劇から始まったこの物語が、道すがら、「主人公兄妹はだいぶ不幸に見えるが、実は運が良かった方なのだ」と、何度も船の転覆を試みてくる……というか、闇の中に救済の光が差し込みかけるのを阻んでくる。 

 

失礼なことを言うつもりは毛頭ないにも関わらず失礼な表現になってしまいそうなのだけど(じゃあ言わないでください)、吾峠先生は、生きづらくはないだろうか。基本的に、一方に偏った体勢で物事を見る方が、境界線がぱっきりと目に見え(るように思え)て、楽でしょうから。

単純な善悪に切り分けることのできない人間の二面性というか、美しい部分と醜い部分、あらゆる可能性の複雑な分岐、などがあまりにも鮮明に見えすぎる方ではないかと思う。あたたかいけど冷たい。優しいけど厳しい。強かだけど脆い。もし今後また筆を執られることがあるならば、先生の作品を生涯かけて追いたい。

 

ⅵ. 恥と歯痒さ

何かしらの「恥」を背負っているキャラクターがやけに多いですよね。

(ここで言う「恥」は、ルース・ベネディクトの『菊と刀』における「恥」の概念とはあまり関係がありません)

炭治郎は、家族が惨殺されていた間自分だけぬくぬくと布団で寝ていたし、義勇は錆兎に守られるばかりで自分は何もできなかった。しのぶさんは肉体に不足があり鬼の首が斬れない。伊黒さんは鬼を崇拝する忌まわしい家で育った。甘露寺は特異体質ゆえ理不尽な差別を受ける(あんなに可愛くていい子なのに…!)し、産屋敷耀哉は他でもない、自分の一族から化け物を出してしまっている。そして杏寿郎はなぜか親父の恥を背負わされている。

一方の鬼は鬼で、各々生き恥を積み重ねている。

双方等しく、恥まみれ。

となると重要なのは、「一点の後ろめたさも無いクリーンな生き方をすること」ではないということになる。

 

となると、この作品において天下を分けるエレメントは、「恥」をいかに昇華させるのか、という部分にあるんじゃなかろうか。

恥と生身のまま対峙し、自分の中で炎に変えられるかどうか。

散らされた火花に根気と勇気をもって酸素を送り続け、大きく燃え上がらせることの出来た者は鬼狩りに。それが叶わず、己が身を焦がし、プスプスとススになってしまった者は鬼に。

「恥」はある意味、生き物だと思います。原っぱで放牧するような感じで恥から目を逸らして生きようと思えばそれも可だけど、これに手綱を括りつけて飼い慣らそうとすると暴れるわ襲い掛かってくるわで疲れる…けれどそこに価値がある…(途方に暮れる目)

 

3. 個人的な嗜好

ⅰ. 怒りや憎しみは「原動力」

私の生まれ育った星では、怒りや憎しみなどの負のエネルギーは我々をダークサイドへ導くという義務教育が成されます。

一方鬼滅は、「復讐は何も生まない、よしておけ」理論は通用しない、厳しい弱肉強食の…いや、強きは弱きを守り助ける、慈しい世界です。

あまりのカルチャーショックに、最初のうちは「ああ…そんなに怒ったらダークサイドに…!」「その憎しみ、帝国軍の餌食になっちゃう…!」とハラハラしました。

物語冒頭、冨岡さんの

「怒れ 許せないという強く純粋な怒りは、手足を動かすための揺るぎない原動力になる」

というセリフに度肝を抜かれた。

「心を落ち着けて、過去の仇を忘れ、理不尽を受け入れて川の流れのように生きましょう」などとサラリーマンの自己防衛法を説いたとて、彼らの耳には届きません。誰にも聞こえてないのよ、腹の底から怒っているので。怒りを纏ってギラギラ輝く彼らは眩しい……陽の光そのものだねえ。

復讐は彼らにとって、独善的なオーガズムではないんですよ。むしろ、未来への祈りの形。

これは個人的な好みですが、不条理や不本意に真っ当に憤ってぎりぎりと歯を食いしばる少年少女たちがこの世でいちばん好き。なんならそれ以外の人間には特に興味が無い。

悲しみに呑まれ落ちてしまえば痛みを感じなくなる。そうですよね。

それでも落ち果てることなく、「痛み」を無視しない彼らは強い。「忘却」や「許し」という、自分に対する麻酔を断固拒否している。

無惨が言うように、自然災害だとでも思って許してしまえば楽なのにね。忘れてしまえば、穏やかに暮らせるのにね。

 

ⅱ. 声を荒げない男尊女尊

大正時代の話なので、ある意味物凄くリラックスして観られました。

フェミニズム、選択的別姓、育児休暇…ハイ。全部正しいよ。間違いなく必要な議論だよ。でもちょっとだけ疲れた。しかし、息を整えようと立ち止まったそばから「看過は加害です!!!」などと責められる。みんな元気で羨ましい。あれ、なんか冨岡さんみたいになっちゃった…嫌味じゃなくて、本当に、私には最近エネルギーがありません。だってどれだけ声を張り上げても、自分の喉が壊れるばかりで、本当に聞いて欲しい人の耳には届かないことがあるから。

 

鬼滅の舞台は大正時代で、現代ではあまり耳馴染みのない「俺は長男だから……!!!」なんて台詞が沢山出てくる。これは主人公炭治郎の矜持であり、誰にも奪われてはならない高潔なプライドである。誰も邪魔しないであげて欲しい。

だって炭治郎は、自分に課す義理や「あるべき姿」を他者に無理強いすることが一切ないんだもの…!だから誰一人、炭治郎の幸せを自分のものさしで測ることはあってはならない。ここから先は一歩も通さん。

(ちなみに「男なら!!!」を連呼するちょい古価値観の持ち主錆兎は序盤で退場。泣くな冨岡)

 

それに、「男が女を守るぜ!女は引っ込んで飯でも炊いてな!」的描写は皆無。むしろしのぶさんがいないとみんな死ぬし(?)、甘露寺の特異体質はれっきとした武器だし、珠世姐さんがいなければ無惨は倒せなかった。なんなら飯炊きは炭治郎が一番うまい。

 「だって私、女だし…」「何もできないし…」などとうじうじもじもじ言ったなら、

『え………!???何!??今なんて…!?!?(日輪刀を振る)』

ってゼエゼエ聞き返してきそうな多忙な男たちしかいないのも気が楽。

基本、差別をしているヒマが無いんですよね。「男と女とは…」「女性の権利とは…」と灯りのついた温かい部屋でスタバのカップ片手にポヤポヤとディスカッションする時間など彼らには無く、日中は仮眠!鍛錬!研究!夜は鬼狩り!!!!!!みたいな生活。

鬼滅の世界における男尊女尊のかたちは非常に自然で、全く押し付けがましくない。小骨が引っかからない。

得体の知れない「ラヴ♡」という感情(ごめんなさい、わたくしはアロマンティックです)をねっとり描いていないところもストレスフリーで良い。恋愛感情というものを知らないのですが、アレですかね、冨岡義勇と胡蝶しのぶの間にバッッキバキに走っている電流がまさに「ラヴ」という認識で合っていますか……?

主人公の炭治郎はやや中性的なキャラクターだと思いますが、男性性と女性性のバランシングが、主人公をナヨナヨ草食系男子にするとかそういう安直な手立てで成されているのではないのがあまりにもフレッシュ。

彼は、男じゃなく女だったとしても、つまり長女だったとしても、家族のために頑張るメンタルムキムキ乙女だったと思う。容易に想像ができる。

 

4. 要するに何?

吾峠先生のせいなんていうことは一切無いんだけど、正直、鬼滅に出会ってからめちゃくちゃ病んだ。

本気で病んで、涙が止まらない夜を何度か過ごしました。

(なんの話が始まったの……………………)

愚かな食わず嫌いで少年漫画という素晴らしい世界を知らないままこんなに長い月日を暮らしてきたこと。

これまでなんとなく敬遠していた声優の皆様のお芝居に、自分でも手が届かなくて困っていた胸の奥底を掻きまわされたこと。

時に自分の命さえ削りながら絵に命を吹き込むアニメーターの皆様のプロフェッショナリティを全くもって意識したことがなかったこと。

以上、全部恥ずかしい。生きていられないほど赤面する。

まあ、生きているうちに自分の視野の狭さに気付けたのはまだ幸運なのかもしれない。ぜひとも来世まで記憶を引き継ぎたい。

そして、鬼滅のキャラクターたちの生き様に惚れれば惚れるほど、自分の生き様がいかに惨めで取り留めのないものかという事実が浮き彫りになって、過去に犯してきた罪や晒してきた恥が走馬灯のように脳内を駆け巡ってしまった。

日々積み重なるちょっとしたフラストレーションや溜まりゆく静電気に無理やり蓋をして、笑いたくもないのに笑って、流れに従って無味な日々を送っていたのに……突如脳がWi-Fiに繋がって自動アップデート始まっちゃった。思い出してしまった、自分の愚かで弱々しい輪郭を。

私は全然気高くないし、命を賭して守るべきものもなければ、特別な才覚に恵まれているわけでもないので、自分のか弱い声がかき消されるのを黙って眺めて、皮肉っぽく笑ったりして、ただ日を暮らすしかない。鬼狩りのみなさんにとっては、私なんて「守るべき民間人」のうちのひとりでしかないのね。肉の壁になることさえ叶わないのね。だって私がすやすや眠っている間に市街戦はすっかり終わっているだろうし、荒れ果てた戦場さえ、朝日が昇る頃には隠の皆さんの手によってすっかり元通りにされてるんだもの。

 

恥ずかしい。不甲斐ない。情けない。憎い。

そういう感情たちに、崖の縁まで追い込まれてしまった。

 

思うに、鬼滅の刃は、「退路を断つ」作品である。

崖の底の無痛の境地に落下して屍のように生きようとする私の胸ぐらを引っ掴んで

 

逃げるな!!!

 

と叱りつけてくれる。悲しみから、怒りから、恥から逃げるな。

生きることから逃げるな。

 

無論、作者の思惑や意図はひとつではないし、私の発言の全てがまったくもって的外れかもしれませんが、私がこの作品から受け取ったメッセージはこれです。

と、いうことで。次回は、強靭なヒーローでありながら実はかなりの矛盾とアンバランスさを懐に隠した「煉獄杏寿郎」という〜Angelo〜についてお喋りさせていただきたいわけです。

(まだ続くんかい………………………………………)